人事におけるB/SとP/L


1.経理の構造

 友人の中小企業診断士から「貸借対照表(バランスシートB/S)と損益計算書(プロフィット&ロス・ステートメントP/L)という2つの決算書は、並列なものではなく、タテに重なって循環するものだ」と言う話しを聞きました。
 右に「負債」と「資本」、左に「資産」のB/Sを上にして、右に「収益」、左に「費用」のP/Lを下に重ねた図を、世界で最初に簿記の原理をまとめたイタリアの数学者の名前にちなんで「パチオリ図」と言うのだそうです。
 (参考文献(テキスト)「図解 直感でわかる経理のしくみ」加藤弘道著−東洋経済新報社) 

「それは、おもしろい・・・」と思いました。
 どのような分野のものであれ、横に並んだものをタテすると、そこに価値が生じ、アレかコレの選択ではなく、コレをアレにという運動を始めるものだからです。

2.資本の増殖

 友人の話し(とテキスト)は、松下幸之助の「経営とは、社会から預かった大切な人、物、金を最も効果的に運用して、より良い価値を創造すること」という言葉から始まります。

 預かった負債(他人資本)は自己資本と合わせて、会社の資産となり(B/S)、それは費用として使われ、収益となり(P/L)、その中に利益があり、一部は配当、税金などで外に出て、残りは自己資本として、再び経営に使われます。
 そうして資本は、左回りにG(カネ)→W(モノ)→G′(カネ)に変化し、増殖していくのです。

 P/Lの費用と収益の差が、入っていく量と出ていく量の差であるフローとしての当期利益で、B/Sの負債+資本と資産の差が、初めの量と終わりの量の差であるストックとしての当期利益です。
 この2つの利益は、理論的に一致します。

3.人事の構造

 人事屋である私は、その話を聞いて
「ああ・・・この『B/S』と『P/L』を逆に重ねると、『能力評価』と『業績評価』ではないか」と思いました。

 日本的なものでも、アメリカ的なものでも人事考課は、能力評価と業績評価に大別されます。

 業績評価は、評価期間の『全般』にわたり成功と失敗の事実を見ます。それは、損益計算書−P/Lの方法と同じです。
 能力評価は(評価期間における)過去の仕事から、評価期間の終期(=次期という未来に向けた始期)の『時点』における能力を評価します。すなわち、基準をもとに、期初からいかに成長したかを見るのです。それは人事におけるバランスシート−B/Sであると言えます。

 社会と企業という大地に播かれた種という可能性は、能力という根を伸ばし、仕事という幹を立ち上げ、花を咲かし、実を結び、実のなかには新しい種があり、その活力を新しい樹木に継承させつつ、自らをも新しく大きなものにしていきます。
 そうして人材は、(そして会社も)人→ノウハウ→人′と成長していくのです。

 右回りであるか、左回りであるかは、わかりません。でも、人は加齢するものなので、時計や十二支のように、右回りということにしておきましょう。
 
4.財と人材の違い

 人事の世界では、バチオリ図とは逆に、能力評価≒B/Sが土台として下にあり、業績評価≒P/Lは上に重ねられて表現されます。
 財務の専門家は、全体のなかの適切な(労働)「分配」を見て、私のような賃金・人事をすなる労務士は、(個々の社員への)有効な「配分」を提案します。

 増殖する資本と成長する人材はどこが違うでしょうか?それは、いろいろなことを考えさせられるテーマです。(この文書も、いずれは増殖、または成長していくことでしょう)

 「人財」という貝扁のジンザイが、一時流行りました。
 しかしながら、人間は、海の底に沈黙する貝ではなく、浜辺にうち寄せられた宝貝(貨幣)のように、交換できるものでもなく、割れるものでもありません。宝といえども貝は、しょせん貝殻であり、記号ですので、私は素直に、人はどちらかというと木扁の「人材」であろうと思っています。

 人間には口があります。口の数を人口と言い、口はモノを食べて、口からは言葉がでます。
 人材は、君子豹変することもあり、マイナス・コンピテンシーにより、一挙にダメンズになることもあります。
 その寿命はどうでしょうか?人間80年、職業人としては、ほぼ40年。企業30年説との関係は?
 しかし人材は、世代交代をすることができます。むしろそれは、しなければならないものです。

 個人の能力の伸長と業績の差がストックとフローのようにデジタルに一致するというのは難しいことです。しかし、能力ではなく実力で、かつその実力の社内の総和を考えるならばどうでしょうか?

5.人事のおける負債(他人資本)とは

 負債と資本を合わせて、資産であるというのは「借金も財産のうち」という言葉を充分に納得させるものです。相手から借金をするには、こちらに信用力が必要だからです。

 人事における他人資本には、協力・協働・協調性などが含まれるでしょう。また、吸収力のある人、教えてもらい方が上手な人の、その能力はなによりも素晴らしいものだと思います。

 人は一人では、成長することも、生きていくことも、成果をだすことも、難しいものです。        

 

(阿世賀 陽一)