中高年は未来に向かう

1.脳力は加齢とともに去りぬ

「脳年齢 年金すでに もらえます」(満33歳)
 5月14日に発表された第20回第一生命サラリーマン川柳コンクールの第1位の作品です。
 年金をもらえる年齢とは、(サラリーマンであるから厚生年金であるとして)特別支給の60歳という意味か?定額部分もでる年齢か?本来の厚生年金である65歳か?と言うようなことはさておき、脳を鍛えるソフトで自分を試してみた満33歳氏の句の趣旨は「加齢と共に脳は衰える」ということを前提としたものです。されど・・・。


2.脳内物質と仕事の喜び

  先日、社会経済生産性本部の会員無料セミナーで茂木健一郎さんの講演を聴いてきました。
  書店の棚の並びを見ると「唯脳論」で売れた養老猛志さんの弟分のようですが、養老さんが医学者で、専門は解剖学で、その意味で優れた「見者」であることと比較して、茂木さんは脳そのものを研究する科学者です。
 講演の内容は、(ただし、私の脳の如是我聞)

脳は飽和しない。「n+1」可能無限。必ず次がある。
仕事などが上手くいって誉めてもらうと、脳の中に報酬物質「ドーパミン」がドパーッと出て喜びを感じ、その仕事は強化され、また次の仕事へ向かう喜びになる。
プロフェッショナルとはその喜びのコツがわかった人である。
脳は「他益的行動」を好む性質があって、(誤った「成果主義」=短期的個人業績主義のように)自分の成績だけを利己的にあげようとすると上手く機能しない。そのように組み込まれている。
行動することは、赤ちゃんが手足を動かすように、それ自体が喜びであって、(旧約聖書の)「労働は罰である」は自然なことではない。

等々、私が学び、考え、体験しながら実践してきた、広い意味での賃金・人事論や労働心理学を科学の面からも立証するものでした。

 脳の問題が解明されはじめ、流行しはじめたころ、NHKの特集番組で「脳内麻薬」などの存在が紹介され「人間の好き嫌いから、神秘体験や悟りに至るまで、そのような脳内物質が関係している」と言う解説を聞いて、見ていた妻が「人間について、そう言われてしまうと味気ないものだねー」と言っていました。
 しかし、そのような感想が脳内「麻薬」という言葉から連想されたものだとしても、
・「家庭による安らぎ」と「クスリによる安らぎ」
・「仕事による喜び」と「クスリによる喜び」
と並べて見ると、単に安らいだり喜んだりすれば良いというものではないと言うことがわかります。

 話しが「脳」とその機能である「心」に関することなので、テーマに関係なく進みがちですが、茂木さんのお話しで、私がとても感銘を受けたことが2つあります。その2つのことは関連しています。


3.明日を生きるために

 1つ目は「人間の脳は、と言うより生き物の脳のメモリーは、コンピューターなどと違って過去を正確に再現するためにあるのではなく、未来を予測するためにある」と言うことです。何のためか?生きるためです。生きてしまった過去を振り返るためではなく、今の次の瞬間から未来に向けて生きていくためです。
 なんだか昔の実存主義のようです。
「生まれた時代が、少し早すぎた」と言って亡くなったハイデッカーを思い出します。

「未来を予測するために・・・」という茂木さんの講演を思いだし「今の次の瞬間から未来に向けて」と想ったとき、私の頭の中に次のようなフレーズが浮かびました。

「旅支度をして、後ろを振り返るものではない」
(これは確かキリストの言葉だった。)

 そう思い、家に帰って福音書を見ると・・・違ってました。
 ルカ書9節「鋤に手をかけてから後ろを顧みる者は、○○○」とその次の節の共観部分であるマタイ書第10節「旅には○○も○○も○○も、持って行ってはならない。」が、混ざったのでした。キリストは別のことを言っているのかもしれません。しかし関連したことを言っているのかもしれません。

 友人に先のフレーズをメールした日を確かめ、手帳のスケジュール表を見ると、その日は、ゴールデンウィークが終わった7日です。
 今年のゴールデンウィークは、「北へ」ローカルな「一人旅」に行ってきました。その影響かもしれません。また、子供の時に見た映画の主題歌の一節「後を振り向きゃ、心細いよ〜。それでなくとも遙かな旅路〜」(小林旭「さすらい」)が背景から出てきたのかもしれません。
 あるいは、ゴールデンウィーク前に古い仕事に区切りがついて、新しい仕事をはじめようと意欲していたシチュエーションに、その時、私があったことを反映していたのかもしれません。
 
 話しが、「脳」と「心」に関するということに甘えて、論理も脈絡もなくシュールに飛んでいるようですが、飛び回りながらもテーマから離れているのではないことが、こうして書いているとわかります。


4.創造性の公式 
 
 明日に、そして次の瞬間に何が起きるかわからない世界で生きていくために、人間は創造性を発揮しなくてはなりません。2つ目は、次の公式です。

 創造性=意欲×経験
 
 茂木さんの研究の結果、
「創造するということは、脳の側頭葉が司る経験と前頭葉が司る意欲が相まって生まれる」ということです。
「理論的には、若い人よりも高年齢者のほうが、創造性を発揮するのに有利」と言うことになります。
 それは、新鮮な言葉です。

 茂木さんは例として「カントが(3大主著の第1批判である)純粋理性批判を書いたのは57歳の
時」と話していました。ゲーテもお盛んだったし・・・。
 楠田丘先生は80歳を超えてなお、新しいことを考えようとなさっています。
 昨年、ボブ・ディランの全盛期の実録DVDが出ているというのでレコード屋に買いに行くと新譜が出ていました。「えっ?まだ出しているの?」と驚き、ついそれも買って、お金をムダに使ったかと思いながら聴いてみて、仰天しました。全盛期の、若さに匂うような天才がハーモニカをぶら下げて闊歩している時のようなものではありませんが、中年の頃よりずっと凄い内容でした。なんにしてもカッコイイ。

 そのように偉い人たちや天才のように・・・でなくとも良いのですが、私も中高年の時に入って久しく、茂木さんの公式は、人々に勇気を与えるものです。
 
 もちろん「脳」も「肉体」ですから、加齢とともに「モノ覚え」などは悪くなるでしょう。しかし、仕事をはじめ、生きていくことは、知識を暗記するばかりの受験勉強のようなものではありません。  
そのようなメモリー機能はパソコンや(パソコンが嫌いな高年齢者でも)手帳術などで、充分補えるものです。
 
   
5.創造性を阻害するもの

 さて、それではどうして一般的に、創造力は加齢とともに衰えると思われがちなのでしょうか?
公式を逆に読めば、明解です。

・その一 意欲(やる気)がないから

 理の当然。今やっていることに、どうしてもやる気が起きないのなら、何か他に、やる気が起きることをした方が、人間、幸せというものです。

・その二 経験が邪魔をするから

 誰でも「あのような大人になりたい」と思うことがある一方、「あんなトシヨリ(またはオジサン)には・・・」と思ってしまうことがあります。
 茂木さんの創造性の公式をもとに考えると次のようになります。

  意欲×(経験×-x)=阻害要因〜破壊性
 
 小さなマイナスが混入しても、かけ算であれば、人間の行動は意図したことと逆に向かうことがあります。
 「-x」のような反対行動(マイナス・コンピテンシー)因子が脳内にどのように発生するのか、人類のために、茂木さんのような脳科学者には、是非研究していただきたいものです。
 おそらく(昔風な脳の説明の仕方で科学的ではありませんが)「古い脳」にあっては健全な生存本能が、「新しい脳」の中で、排ガスを出してアイドリングするように、グルグル廻って後ろ向きに止まると・・・「保身」に転化すると言うことだと思います。

 明日を生きるために前を向くようにできている人間が、後ろを向いて何かにしがみつくと、ろくなことはないと言うことです。

 若さとは、年齢ではない。未来に向かって変化することである。

(阿世賀 陽一)