安全第一(やる気はどこにあるか−ステップ論篇)

1.「安全第一」の次

 先日、安全衛生を専門としている社会保険労務士の方のお話を聴きました。
 同じ社会保険労務士でも総務・人事部畑から出た方とは、また違った視点です。
 
 その中で、誰もがモノ心ついたころから知っている、工場などにミドリ十字のマークと共に、必ず掲示してある「安全第一」という言葉の謂われがありました。
 それは次のようなことです。
 「1906年アメリカのUSスチール社のゲーリー会長は当時災害が多発していたので(それまで『生産第一』であった)会社の基本方針を『安全第一』『品質第二』『生産第三』と改め、安全作業に関する施策をなによりも優先して実践したところ、災害の減少はもちろん製品の『品質』も『生産』も向上した(安全用語辞典より))という話です。

 2つの点で感銘を受けました。
 1つ目は、「製造業だからあたりまえ」ではなく、また単に人道的な、あるいは労働安全衛生法遵守というだけの話でもなく、「第一」の次には「第二」「第三」があると言うことです。
そこで「第一」の真実味が増してきます。
 「第一」で言葉を切ると「その他は、二の次」になりがちです。
 小売・サービス業の会社が『顧客第一』をトップから管理職まで、社員に向けて怒ったようにガンガン責め降ろし・・・・、そして「どうですか?」とCSリサーチ。
 結果、「ここの社員は暗くて不満足」という話しがあります。
 『社員第一、顧客第二』を掲げる会社(サウスウエスト航空、ローゼンブルース)が顧客に高い支持を得ているという話しもあります。
 
 2つ目は、このような考え方には、企業『目標』へのステップが含まれているということです。

 ミートホープや「白い恋人」は・・・・、『品質』と『生産』の優先順位・・・・以前のモンダイです。北海道出身者として、とても残念なことです。(そういえば、雪印は『品質』でした。)
 それは「第一」以前に、根本的な、企業『目的』にかかわることです。

2.華麗なる一族の工場

 春のテレビ番組「華麗なる一族」の、キムタクが演じる主人公が社員の労働災害(河に転落)を救助して、非正規従業員を含む全社員の「やる気」を引き出し、突貫工事に突入した末、労働災害(工場の爆発・火災)で、全てを失ったと言うストーリーを思い出します。
 
 もっとも、あのドラマは、すでに人の子の父親になっている主人公が、自分の父親がどうしたこうしたで自死して終わるという・・・・、「若、やるじゃねぇか!」と協力を惜しまず、火災の犠牲で亡くなった強面の人足頭が、草葉の陰であの最終回を見たなら、「かーっ・・・・ぺっ!」と(西原理恵子風に)唾棄するであろう、「・・・・なんでぇ」という話でしたが、それは全くの余談。

3.やる気のステップ

 普段から「生産第一!その他二の次」ならば、万が一「死亡災害」が発生した時、遺族のモノ言いは「ウチの父ちゃん、会社に殺された」と言うことになるでしょう。
 そればかりではないのですが・・・・。
 子供の時、親戚の結婚式で、新郎の会社の社長が
 「当社における安全のためにも、なんとか家庭で、上手くやってもらいたい」
 とスピーチしていたのを思い出します。
 夫婦仲のことは会社の責めに帰すべき事ではありませんが、それは思えば、経営者として、人として、深い経験に裏打ちされた言葉でした。

 マズローは、人間のやる気(動機)は
1.生理的欲求
2.安全の欲求
3.所属と愛の欲求
4.承認の欲求
5.自己実現の欲求
 と進んでいくという欲求5段階説を唱えました。
 
 要は、「衣食足りて、礼節を知る」です。

 ちなみに、『夜と霧』を書いた心理学者ヴィクトール・E・フランクルは、そのような段階説に反対していました。「生きていく上で最悪の環境であるナチスの強制収容所でも、人間らしく生きた(そして死んだ)人はいた」と言うのです。

 そういうのは、空海や親鸞風には、(竪ではなく)「横に超える」というものなのでしょう。そのような可能性は、人間には確かに、あるのだと思います。

 ハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)(「やる気はどこにあるか−動機論編」参照)
に対応させると、マズローの5段階は、真ん中の「3.所属と愛の欲求」のところで2分され、「安全・衛生」は文字通り「衛生要因」です。
 労働政策上、一般的には、「衛生要因」に配慮することは、積極的な動機付けではなく、消極的な、従業員不満足を防止するためのものです。
 
 しかし、生理的に食っていくための「給与」が労働価値を「承認」する「賃金」に昇華していくという私風の考えから言えば、労災保険料率の高い業種において「ゼロ災運動」は、確かに目標となり、「動機要因」となる「達成」につながります。
 それが安全管理部の達成にとどまることなく、全社の継続した目標と達成に対する「感謝と祝い」があれば、素晴らしいことです。本来、忘年会とは、そのようなものではないかと思います。

 もうひとつ、どのような業種であれ、「安全」を願われ、願うことは、自分が今所属している会社の「仕事そのもの」への愛と誇りにつながると考えられます。

「ちょっと行ってくらぁ!」
「あんた。ちょっと待って・・・・(カチカチ)
               今日も無事で・・手柄立ててくんだよ」

(阿世賀 陽一)