非正規従業員の愛社精神

1.非正規従業員の内部告発

 今年、2007年の世相を一字で表す恒例の今年の漢字には「偽」が選ばれたとのことです。振り返ると、そのような問題が続いた1年でした。
 テレビに「船場吉兆」の経営者が長く長く長く・・・・頭を垂れていました。
 「どうして(パート)従業員のせいにしたのですか?」という内容の、長男である経営者への問いに、叱責するような!女将たる、お母さんの声。
 (頭の中が真っ白になって!!)
 「頭の中が真っ白になって・・・・云々」
・・・それは、確かに真っ白だわ。
 亀田大毅のセコンドについた父と兄の、人に聞こえてはいけないアドバイスの時と同じように、感度の良いマイクがしっかりひろっていました。自分の言葉で考えることも釈明することも許されないまま辞任していく、悲しい経営者の会見でした。

 そのような悲喜劇は、もうさておいて・・・、
 今年問題になった食品企業は、かつての雪印乳業のように食中毒事件を起こしたわけではありません。
 問題は、その問題が明るみに出た原因のほとんどが、内部告発だと言うことです。
 しかも、その告発者が、いわゆる「非正規従業員」であると言うことです。

 「・・・・・・・・それよりも! にっくき足利、近江の佐々木、こたびの新田の 謀反・・・・
 みな、源氏ぞ・・・・。
 他にも・・・・おるかもしれん。諸国の源氏がそろおて寝返るやもしれん。
 案じられるは、このことぞ!」
 というようなことを、昔、NHKの大河ドラマ『太平記』で、フランキー堺演じる鎌倉幕府最後の実力者、長崎圓喜こと平高綱が言っていたのを思い出しました。

2.新時代の「日本的経営」

 終身雇用(期間の定めのない雇用契約)(要は、定年+継続雇用等までの契約)の正社員を企業が丸抱えしていく雇用管理からの脱却を提唱したのは、1995年に発表された日経連の「新時代の『日本的経営』」でした。
 そこでは、雇用のポートフォリオ(雇用の最適編成)として、従業員を次の3つのグループに分けています。

 @長期蓄積能力活用型グループ(期間の定めなし)
 A高度専門能力活用型グループ(有期雇用)
 B雇用柔軟型グループ(有期雇用)

 卓越した整理だと思いました。特に、期間の定めのない社員については、ただ終身雇用を全うしようと「生き残り」を「図る」ことではなく、長期に雇用されることについて、何が役割なのかを明確に示しています。成果をあげる者は、あるいは「高度専門能力活用型」社員でも良い。「雇用柔軟型」社員を含めたチームの総合力でも良い。「長期蓄積能力活用型」社員は、その成果に付随している「宝」であるノウハウを吸収して、蓄積して会社の財産とし、その「成果の再現性」を全社的に伝播し、次代に継承させていくことを使命に持つ、空間的にも時間的にも会社の「柱」です。そのような人事政策は、必ずや会社の生産性を向上させ、力をつけていくことでしょう。今の日本経団連の、「正規・非正規というのは就業形態・雇用形態を反映させたものではないので」と「長期雇用従業員」「有期雇用従業員」という言い方よりもずっと深い意味があります。
 「正社員」に対して「非正社員」という言い方もあります。「非正」というのはあんまりですが。

3.あれから12年・・・

 それはバブル崩壊後の労働力過剰の時代でした。今は労働力減少化の時代です。変わらないことは、安定して成長する時代ではないと言うことです。
 新時代ではない「日本的経営」や終身雇用の是非、それが「格差の源であるからケシカラン」とか、「もっと徹底的に進めるべき」とか言うことは、私の立場ではありません。しかし「雇用柔軟型」「非正規従業員」「有期雇用従業員」等の拡大を「働く意識の多様化」「個の尊重」「労働者のニーズなどに応じて」とのみ表現することは、あまりにもキレイゴトすぎます。
 雇用は、雇う会社の必要と雇われる人の能力がマッチして成立するものです。また、雇われる人に生活の必要があるように、雇う会社にも雇える能力というものがあります。そのような個々の企業が顧客に向けたそれぞれの経営戦略により健全に発展し、そこで働く人々が、損得だけではない、満足を得ることが大切です。顧客満足と従業員満足は、ニワトリとタマゴのような関係にあります。

 ただ、「雇用の最適編成」が広い意味での従業員の会社への求心力低下をもたらしているとしたら問題です。またそれは、充分、あって然るべきことだと思います。

4.パート社員の誇り

 会社の将来を託す正社員について、多くの期待や人事政策を持つことは当然のことですが、だからといって、パート社員等を気楽に雇えるものではありません。2008年4月には、通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止、均衡のとれた待遇を確保するために講ずべき措置などの改正パート労働法が施行されます。労務管理としての大きな課題です。

 内部告発等のリスクに対しては

@ 告発されるような問題を起こさないためのリスクマネジメントとしてのコンプライアンス活動
A ヘルプライン制度など、問題が起きても内部解決できる体制
 などが重要な政策になっていくものと思われますが、もうひとつ、いわゆる非正規従業員(「働く側のニーズによる者」と「余儀なくされている者」の両方)をも含めた社員の
B会社への求心力(または、あえて言えば「愛社精神」)を維持すること

 それは、人事マネジメントとしても「新時代の『日本的経営』」から12年、時を一回りした、今日的な課題です。 
 そのためには、何をどうすべきでしょうか?

 雪印の一枚看板は「品質」でした。
 2002年に雪印食品の廃業・解散が決まったとき
 「どうして、こんなことになったんですか?
 私たちは、品質は私たちが一番だということを誇りに働いてきました。今でも品質は最高なんです!」と、テレビの取材者に悔しさいっぱいに叫ぶ、非正規従業員たるパート社員の言葉が胸に残ります。

・・・このテーマ続く (阿世賀 陽一)