非正規従業員との均衡と労働価値

1.パート社員・正社員間の差別を禁止

 この(2008年)4月から改正パート労働法が施行されました。
 改正の重要なポイントである正社員との「差別禁止」と言う点で使用者が気になるところは、やはり処遇の本道「賃金」ではないでしょうか。ちなみに「パート労働法の対象は、パートタイマー(短時間者労働者)なのだから、フルタイム有期契約の非正規従業員なら良いんだ!」なんて言う人がいたら、それはあまりにも浅読みに過ぎます。これまでの行政通達の趣旨、法改正の際の付帯決議、「足の大きさと長靴の大きさ」と言う普通に常識的に考えてみての公序良俗からも、トラブルになれば、よけい不利なことになるでしょう。
 正社員とパート社員の差別を争った裁判では、平成8年に長野地裁上田支部における丸子警報器事件があります。結果は「女性臨時社員の賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるときは、その限度において使用者の裁量が公序良俗違反になる」として会社の負け。控訴して高裁で負け気味和解。最高裁の判決まで行っていませんので確定した判例ではありませんが、会社が格差の合理性を立証できない限り、今回のパート労働法改正、それに先だつ3月1日施行の労働契約法第3条第2項「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、または変更すべきものとする」と言う与野党共同修正による「均衡考慮の原則」から、差別禁止の問題は、強化されていくことはあっても、弱まっていくことはないと考えるべきです。

2.女性賃金格差の訴訟

 昔から処遇の差別・格差の問題は女性問題として争われてきました。おおむね「同期入社の男性が部長になっているのに、私がいまだに一般社員であるのはおかしい」というトラブルです。誰もが部長になれるわけではないので、「私が〜」以下には納得がいかない向きもあるでしょうが、「男性が部長になって〜」については、そのようなトラブルが起きる会社に(昇進そのものは会社の裁量権ですが)昇進の前提となる昇格制度を含む、ちゃんとした賃金・人事制度があり、きちんと運用されてきたかどうかは疑問です。元々労働基準法第4条に、「男女同一賃金の原則」があり、平成11年の男女雇用機会均等法改正からは男女別コース制も違法とされています。
 今や、女性は「差別」で、男性は「年功」などという扱いや実態は(人材活用という経営的な観点からも)許されるものではありません。
 今後は、正規・非正規間でも、そのようなトラブルになっていく可能性があります。

3.究極の差別禁止対策
 
 以前、パート労働法対策として「差別と言われる前に区別を」と、有期・短時間契約という雇用形態から配置換え・異動・転勤、時間外労働については就業規則で別に規定しておくことと、その職掌をよく見直すことが必要であると書きました。
 しかしパート社員の職掌や職務内容の規定のみを考えると「苦情処理はしなくてよい」など、「そこまで頼んでない」的な制限的なものになります。それは人材活用としてはもったいない話しです。少なくとも顧客は正規・非正規を考慮してはくれません。

 究極の差別禁止対策は、差別しないことです。

 就業の実態だけではなく、基本的には誰に対しても能力や成果に応じた処遇をすることです。ただ1回のナントカ○級試験合格や入社試験が大切か、その後の働きと成長が大切かです。
 正社員の賃金・人事制度を確立していることが前提ですが、その制度にパート社員を乗せていくことは、理論的になんら無理なことではありません。大企業では、非正規従業員の正社員化が進んでいくでしょう。
 もちろんパート社員の場合は、原則として総額は時間比例です。また今後、総額原資の問題からは、社会的に正社員を含めた下位等級の賃金カーブは緩くなって、その分、昇格昇給が高くなっていくことと思われます。それはインセンティブであり、壁でもあります。
 職能資格制度でも、コンピテンシー(実力)等級制度でも、パート社員に期待される能力・行動スタイルの質・レベルは、正社員の1・2等級あるいは3等級のレベル定義と大差ないものです。もちろん「資格定義」と称して「易しい仕事ができる」とか「やや困難な業務ができる」というような曖昧な定義ではいけません。そのような賃金・人事で最低限必要な根幹の不十分さが、上手く行かない根幹です。
 行動スタイルだけで、パート社員向けに、簡単な「道標」を示すならば、

 1は、仕事を、意欲を持って覚えていく段階。
 2は、日常の定型的な業務は「できて」、かつ安定的に「している」段階。いわば「下の一人前」です。
 3は、「2」までの指導者・伝承者、日常想定できる状況変化が発生すれば安定して対応している段階。
 4となると・・・、十全に会社の主力となり、職責も労働時間帯も会社と一蓮托生で、将来の会社を担っていく幹部の準備段階でもありますから、それはパート社員の場合はワークライフバランスの問題があり、一般の正社員でさえも、そうそう登っていけるものではありません。
 
 そのように、正規・非正規を問わず成長しながら能力・実力を発揮して、会社に貢献してもらうことこそが、世は変われども、なお変わらぬ人事の基本です。

(阿世賀 陽一)