裁判員制度への会社の対応

1.裁判員制度が始まります

 5月21日から裁判員制度がスタートします。以後、起訴された殺人や強盗致死といった凶悪・悪質事件の審理に「市民」が加わり、裁判官とともに有罪か無罪か、有罪の場合はその量刑も決めることになります。
 どうも・・・・陪審制のようなものは・・・・、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の強盗・尊属殺人事件の結末では、(これから読もうかという方にはゴメンナサイ)美人の元婚約者のヒステリー一発で有罪になり(その後、寛容なロシアは広いので、流刑に護送される途中で看守を買収してアメリカに逃がそうということになる)、そのアメリカの西部劇では、ストーリーの前半には、お約束の「縛り首だ!」「そうだ!そうだ!」のシーン(アメリカは厳しい・・・・マカロニ・ウェスタンであったか?)。現代ドラマでは、悪い奴に雇われた悪そうな弁護士が、陪審員を詭弁に嵌めて無罪にする(実はその弁護士は悪魔だった)等、あまり良いイメージはありませんが、始まります。
 「市民」には、コモンセンスがあるハズデアルという考え方なのでしょうが。
 特定社会保険労務士に向けた勉強のために大学で研修を受けていたとき、そこの教授が「最近の新米裁判官は判決を出すのが怖くてトイレで震えているのがいるくらいなので裁判員制度はやむなし」と話していたのを思い出します。法律のプロでない人は、どこで震えたら良いのでしょうか?だいたい、日本人はいつ「市民」になったのでしょう。

 私が生まれたときは町民でした。育ったころも町民。住む人も少なくなったそこに今も暮らしている人たちは、市町村合併で晴れて市民。もちろんそのような意味ではありません。

2.「くじ」から判決まで

 とは言え、法律として決まったことですから、会社としても対応を準備しておかなければなりません。
 毎年11月頃、衆議院議員の選挙人(20歳以上)名簿の中から「くじ」に当たり、裁判員候補者名簿に載った旨、地方裁判所から通知が来ます。辞退できるのは、70歳以上の方や過去にすでに当たった人、重い疾病・傷害がある人などです。
 対象となる刑事事件の6週間前までに名簿の中から、さらに「くじ」に当たった人に通知が来て、裁判員候補者として出頭し(交通費+日当8,000円以内)、裁判員として公判に出るのが可能かどうか等の選任手続きの最後に「くじ」で裁判員(6人)と補充裁判員が選ばれます。最後の「くじ」に外れた人は、午前中いっぱいで帰ることができます(交通費+半日分の日当)。補充裁判員は補欠のようなものですが、最初から審理や評議を見ていなくてはなりません。
 裁判員と補充裁判員(他に関連した事件での選任予定裁判員)は、公判が始まると審理と評議に参加し判決に立ち会います(交通費+日当1万円以内)。 
 会社として気になることは、 公判はどれくらいかかるのか?ですが、最高裁判所のHPによると、「できるだけ連日の開廷」とし、「約7割の事件が3日以内で終わると見込まれる」としています。事件によっては「約2割が5日以内、約1割が5日を超えることもありえる」としています。どれほど超えるかは、現在のところ、わかりません。

3.就業規則に規定すべきこと

 国民の義務なので、本人が辞退できる事由は相当にハードルが高く、かつ会社としてはその義務遂行のために不利益となるような扱いはできません。もちろん役員も社員もパート社員も派遣社員にも当たる可能性があります。

(1)まずは、裁判員等になったときや現になっている場合は、会社として本人の義務遂行に配慮するためにも、通知書の写しを添えて届出させるべきです。

(2)出頭した日や審理等に参加する日を確保する裁判員休暇制度は必須です。お役ご免になったときは、休暇は当然に終了し出勤を命じることになりますが、罪と罰をくだした判決の日に、会社に帰ってもう一働きというのは、かなりキツイことではないかと想像します。健康配慮が必要です。

(3)それらの日を特別有給休暇にするなら複雑なことにはなりませんが、会社があえて賃金補償する義務もまたありません(国から日当が出ることだし)。本人は遊びに行くわけではありませんが、会社に労務を提供するわけでもないからです。
 無給休暇にするなら、「裁判員等に当たったので年次を使わせてください」という年次有給休暇の本人の意思による時季指定権をふまえた上で、会社の「その日は困るよ」という時季変更権を(裁判所が認める辞退事由に該当しない限り)「行使しない」旨の規定が有効だと思われます。その年次有給休暇を付与する出勤率計算についても、本人の不利益とならないよう分子(年次を使って出勤扱い)と分母(本人の意思で年次有給休暇を使用しないで欠勤となった日も全労働日から除く)を追加すべきです。

(4)本人が裁判の評議内容などの秘密を漏らすことは厳禁されていますので、本人が裁判員等であることを本人も周囲も「おおっぴらにしてはいけない」「内容を聞き出そうとしてはいけない」という服務規律も追加すべきです。

(5)裁判所は、裁判員等の職務遂行を証明する書類を必ず発行します。その写しを提出するよう定めれば「裁判員やってきまーす」と言って(「親を殺してコンサート」という言葉さえありますので)遊びに行くことは、よもやないでしょう。

(阿世賀 陽一)