時間外は危険因子

1.増大する時間外・休日労働のリスク

 この4月から、1か月に60時間を超える時間外・休日労働をさせた場合に支払う割増賃金率をこれまでの「25%以上から50%以上に引き上げる」こと(中小企業は当分の間猶予)、そして繁忙期などを想定して時間外・休日労働の限度時間(1か月45時間、1年360時間など)を超える場合を36協定に定めるときには「その超える3か月以内の期間と1年間の割増賃金率を定め、それは25%を超えるよう努める」ことなどを内容とした改正労働基準法が施行されています。

 割増賃金率を複雑にしてしまった会社の給与計算のご担当には、同情の念を禁じ得ません。その恨みと怒りのエネルギーを社内の生産性向上に、向けていこうではありませんか。みなさん。

 このところ・・・・テレビCMなどで頻繁に耳にする借金返済「過払い」問題ブームの後には、残業代「未払い」問題ブームの到来を予言する声があります。
 また、複雑化した36協定や男女雇用機会均等法に規定される母性保護時間、育児介護等休業法による時間外労働・休日出勤の制限や休業を与える義務などの不備を指弾されることも考えられます。  

 「責任よりも権利」「成果よりも金」の時代にあって、そのような告発や訴訟などの増加は、実に蓋然性のあることです。

 他の従業員へのマイナスの波及効果も懸念され、さらにそのような人たちに
 「コンプライアンスの欠如!」などと・・・・
 企業統治のあり方にまで言及されるようなことは、何としても、避けたい事態です。
 しかし、時間外・休日労働のリスクは、そのような未払い金やトラブル解決金の問題に留まりません。

2.真のリスクは、長時間残業=過重労働

 人がする病気やケガは、本人対使用者の関係・責任としては、4種類に区分されます。

@健康保険の対象である私傷病。ただし、使用者は健康維持・回復に配慮しなくてはなりません。 
A労災保険の通勤災害。単なる私的行為ではないものの、事業主に対して災害補償責任が課せられるものではありません。
(混同している本人や会社はあります・・・・)
B労災保険の業務上災害A。労災保険は、労働者の保護を目的としたものですから、それが業務上における災害であると認定されても、ただちに使用者の過失責任を問われるものではありません。

 (そこのところを誤解して、自分の不幸を喜ぶような人はいます・・・・)
 業務中に社内の廊下を粗忽に走って転んで、青タンをつくって叱られても、立派に業務上災害です。
 (そのような本人の不注意によるものでも「会社の教育が、不十分だった・・・・」という切り口はあります・・・・)
 しかし!

C業務上災害B。少なくともそれが「過重労働」によるものならば、使用者の責任を問われ、労災保険による補償だけでは済まなくなります。

3.賠償額は「億」の単位

 「うつ」や脳・心臓疾患の増悪、さらにそれらによる自殺や過労死ということにでもなれば、その損害賠償額は「億」の単位に跳ね上がります。
 たとえ本人の積極的意思による残業であっても(その意思の確認はできません)、遺族にとっては
「パパは会社に殺された」になります。

 一昨年の労働契約法の制定以来、裁判で「安全配慮義務違反」は、明確に法律違反として判決されています。
 本年の2月には、過重労働のため「(過労死ではなく)完全麻痺で寝たきり状態」になった原告に、付き添い介護費用も含め、約1億8700万円の賠償と未払い残業代約730万円の支払いを命じる判決がありました。これは過去最高額です。
 判決後、被告が原告に遅延損害金を含め2億4000万円を支払い、謝罪することで、訴訟外和解が成立しています。そのうち約1200万円は未払い賃金分とされています。

 こうして見ると、残業代未払いという「労働の対価」に対して「生命ないしは人生の価額」がいかに大きいものであるかがわかります。 

 何が本人にとって過重であったかには、さまざまな要因があります。しかし時間外・休日労働は過重労働(業務関連性)を認定される要因としては、事実として、最もわかりやすく重要なものです。
 その基準は

@1カ月100時間以上なら即アウト!
A複数月の平均で80時間でも、ほぼ確実にアウト。
Bそして、通常限度の月45時間から増加していくに従って、他の要因ともあいまってリスクも増加していきます。
(それは「割増賃金率の複雑化」どころの話ではありません)

  残業が過度に多い社員や部門は、企業経営にとって生産性(成果÷人・時)が低下しているというだけではなく、放置できない危険因子として見なければなりません。

(阿世賀 陽一)