日本の労働者は「半・病人」

1.業務上の疾病

 もう9月だというのに暑い日が続きます。特に都市部を歩くと異常な暑さです。

 社会保険労務士をしていると顧問先様から、委託業務に当然かかることとして、業務中のことであれ、それ以外のことであれ、不幸にして社員の方が「亡くなった」という知らせを受けることがあります。
 その時、顧問として心配になり、まずご担当に確認することは

(1)36協定を超えるほどの過重労働がなかったか?
(2)健康診断をちゃんと実施していたか?です。

 法的な義務を最低限順守していることが、社員、そして会社を守る前提です。

 業務災害のなかでも「仕事中に仕事が原因でケガをした」というような業務上の負傷と違い、業務上の疾病は就業中に発症するばかりではなく、就業において有害因子に曝(さら)されることによって発症するものなので、業務との因果関係はわかりにくいものです。そのため、その有害因子は法令に詳細に列挙されているのですが、その条項の最後には「その他業務に起因することが明らかな疾病」との包括的な規定があります。

2.基礎疾患の増悪(ぞうあく)

 わが国の死亡原因の3割を占めるものは、脳出血・くも膜下出血・心筋梗塞などの脳・心臓疾患です。
 これらは動脈硬化・動脈瘤などの血管病変等「基礎疾患」が食生活・生活環境などの日常生活要因、遺伝的要因、そしてなによりも加齢によって、徐々に悪化し、ある日突然に発症するものです。
 人間、歳をとれば、誰もが最後にはお迎えがくるものですから、それは自然なことです。

 しかし、その自然な悪化のカーブが、仕事が原因で急激に著しく右肩上がりに増悪(ぞうあく)して、発症に至ったものならば、業務上の疾病とされ、労災補償の対象になります。
死に至るものならば、それが「過労死」というものです。

 増悪の原因とされる仕事とは

(1)異様な出来事(強い精神的・肉体的負荷、著しい作業環境変化)
(2)発症前の時期(おおむね1週間)における特に過重な業務
(3)そして月平均80時間を超える残業などの過重労働です。

 また、会社には労働者に対して健康診断を実施し「健康診断個人票」を作成して5年間保存する義務などの健康管理責任があります(労働安全衛生法)。
 その健康診断については、労働者本人にも受診義務があります。

 そして労働契約法には安全配慮(健康配慮)義務が定められています。会社が、健康診断等によって健康障害が認められた労働者について「増悪防止措置」をとる義務を怠った場合には、その労働者(または遺族)から安全配慮義務違反として民事損害賠償請求訴訟を受けるというリスクにつながります。
 キーワードは「基礎疾患」。
 責任と義務の第一歩は、健康診断による「基礎疾患」の掌握ということになります。

3.日本の労働者の異常所見51%

 ところで、厚生労働省が発表する「労働安全衛生法に基づく定期健康診断の有所見率(健康診断を受診した労働者のうち異常所見がある者の占める割合)」は、平成20年に51%に達しました。
それはまた・・・・異常な事態です。
 日本の労働者の過半数が「半・病人」。

 その事態に厚生労働省は、本年3月に「定期健康診断有所見率の改善に向けた取り組みを強化」という通達を出しています。
 その事業主の具体的取り組み内容は、次の通り。

(1)有所見者について、医師の意見を勘案し、作業の転換、労働時間の短縮等の就業上の措置を確実に実施すること
(2)定期健康診断結果を労働者へ確実に通知すること
(3)有所見者に対して、医師等による食生活等の保健指導を行い、労働者自身も健康の保持に努めること
(4)有所見者を含む労働者に対して、栄養改善、運動等に取り組むよう健康教育、健康相談を行い、労働者自身も健康の保持に努めること

 労働安全衛生法に関連した法理は、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成するために、事業者に義務と責任を課するとともに、労働者にもそれに向けた努力義務があることを主旨としていると解されます。

4.個人情報保護法と健康情報の把握

 「労働者に確実に通知すること」以前の問題として、最近は健康診断を受託した一部の医療機関が個人情報保護法によるとして、結果を直接労働者に渡してしまうことがあります。

 健康情報は、会社と本人の双方が知り得ていないと意味がありません。

 原則としては、医療機関はあらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供をしてはならないものですが、厚生労働省のガイドラインによれば医療機関が事業者に労働安全衛生法に定められた健康診断を受託した場合は「本人の同意が得られていると考えられる」とされています。

 さらに望ましいことは、健康情報の利用目的を特定し、取扱いなどの管理規定を定め、周知して、当然に同意を得ている体制、または本人からも報告を受け得る体制を構築することです。 

(阿世賀 陽一)