メンタルヘルスの悩ましさ −平成10年から12年連続で自殺者が3万人を超えているという時代に

1.昔、五月病・・・・今、「うつ病」の診断書

 4月に会社に入り、まだ仕事が何たるかが分からないままに初任給を貰って、それでゴールデンウィークを遊び、それが明けるとき(また会社か・・・・)憂鬱な気分になることは、誰もが多少なりとも経験していることと思います。
昔はそれを「五月病」と言いましたが、今はそれにメンタルな病名やそれに準じた症名が記載された本物の診断書が付いてくる。そのような時代になりました。中には
「入社したばかりの4月に、上司というものに初めて厳しく注意されたので、これはパワハラであり、よって業務上災害で、その会社の責任による私への補償と賠償は・・・・どうなるのでしょうか?」などと言い出す社員もありえます。
 若年者に限らず、平成10年から12年連続で自殺者が3万人を超えるというストレスフルな現代にあって「メンタルヘルス不調」は、今や労務管理上の特殊な事態ではなく、何時でも、どこでも、誰にでも起こりうる問題です。
 平成19年労働者健康状況調査報告によると「仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスがある」とする労働者は約58%にものぼっています。会社は、業務上はもちろん、私生活が原因である傷病についても健康上の配慮をしなければなりません。業務上となれば(ましてや自殺にでも至れば)労災保険だけでは済まされない高額な賠償問題になります。
 平成17年度と平成21年度を比較すると4年間で、精神障害などによる労災請求件数は、 656件から1,136件、そのうち労災支給決定数も127件から234件と、共に2倍近くに増加しています。
(労基署によるその決定率を見ると約20%。そう簡単に認められるものではありません。)
 平成21年4月の法改正で労災の要因となる「職場における心理的負荷」も追加・強化されていますので、この数字はこれからも増加していくでしょう。
 そして、その水面下では、相当数の労働者本人の、そして使用者の「悩み」があるものと実感します。

2.メンタルヘルス不調対応のリスク

 うつ病などの精神疾患の多くはストレス要因によって発症したり、増悪したりするものです。
 人間・・・・普通は、ある程度の身体・精神への刺激や緊張などの負荷がなくては、生きてはいけないものです。刺激や緊張がないという事態もストレス要因になるというのは人体の不思議。負荷と反応、それこそが「生きている」ということかもしれません。
 しかしストレス要因が募って「心が折れる」までになると、病気になります。
 具体的なストレス要因は、頭のなかにありますので、それが私生活上のことか、業務上のことかは判別がつきにくいものです。最初の原因が私生活上のことでも業務や会社の対応によって増悪することがあります。そのため個人情報・プライバシーの問題は、より一層慎重に扱わなくてはなりません。
 労働者には使用者に対して労務提供義務がありますが、健康を損なってその義務が果たせないことをもって、安易に解雇などの排除策に向かうことは問題自体を増悪させます。
 会社は、社員の安全と健康に配慮しなければなりませんが、メンタルヘルス不調者に対しては、配慮したつもりの言動がストレス要因になってしまうことがあります。
 放置しておくこともまた増悪の原因になりえます。

3.社員がメンタルヘルス不調になったら

 まるで・・・・使用者自身の「心が折れてしまいそうなほど悩ましい」ストレスフルな問題ですが、そのような困難な状況に立ったときほど「直球ど真ん中、剛球一直線」で勝負すべきです。   
 基本方針は、社員に「病気を治してもらう」ことです。
 リスクを予防する原則は、社内教育や自己診断(様々なツールがあります)などにより社員の気づきを促進し、自身が対処していくことです。
 実際に不調者が出たとき、会社のリスクを軽減させるには

(1) 本人の同意を軸にすること。「同意」と言っても会社と本人の二者間だけでは「働きたい」「働けない」と堂々巡りするばかりです。
 相手は本人の意思でもなく、会社の事情でもなく「病気そのもの」なのですから。

(2)事業主や社内スタッフからの相談に無料で応じている各都道府県の『メンタルヘルス対策支援センター』などの外部機関を活用し、

(3)医師による診断と意見を介在させること。「医師」と言っても、本人の不安定な申告に左右されることもある「主治医」による診断だけではなく、会社の業務を掌握して助言する立場にある「産業医」(または『地域産業保健センター』の医師)とその紹介による「専門医」による意見が必要です。

 そのように社員の安全と健康に配慮しながら、「医師」の診断と意見をもとに、復職時の対応も含めて会社が主体的に判断する休職制度や部門組織と社内スタッフによる対応・支援体制を整備しておくことが予防と対策の第一歩です。

(阿世賀 陽一)