メンタルヘルスの悩ましさ2

1.配慮と限界

 日本労働政策研究・研修機構が平成22年に実施した調査では、「メンタルヘルスに問題を抱えている正社員がいる」という事業所は、56.7%(2社に1社強)と6割に近づいています。
 子供の時、クラスの同級生が病気になると、先生は早退させたり、級友はお見舞いに行ったり、休んでいた者が学校に出てくると「大丈夫?」と気遣ったりします。 
 それは、社会人になった後の、社内においても同様なことです。
 そして、その病気が「メンタルヘルス不調」であっても、基本的には、同様なことです。

 「使えないから」と安易に排除策に向かい、裁判にでもなれば、安全(健康)配慮義務違反を問われて解雇無効とされることも、さらには損害賠償の対象になることもあります。

 しかし、企業が営利体である以上、「配慮や支援」には自ずと「限界」があります。会社は、社会福祉機関ではありません。
 たとえその組織が非営利の社会福祉法人であろうとも、一般企業ももちろん同様ですが、限界を超えると上司・同僚は大変な労苦を味わい、顧客(利用者)に危険が生じることさえあります。

2.問題社員+メンタル問題のダブルの悩み

 成績不良社員が
「実は私、メンタルでした」と医師の診断書を持ってくることがあります。さらに
「よって、もっと楽で、やりがいがあって、成績と評価と給料が高くなるような職務に就かせてほしい」と都合の良いことを言ってくる者もいます。
(「楽をして〜稼ぎたい」と矛盾したことを言う人は、やはり病気なのかもしれません。)

 懲戒事由に該当する行為をしておいて
「メンタルな私に罪(責任能力)はない」と新聞の社会面に出てくる刑事事件を疎覚えしたようなこと言ってくる者さえいます。
(百歩譲って「罪」はなくとも、責任能力のない人に、仕事は与えられませんね。)

「下手(へた)にC評価をつけ、あるいは懲戒処分を下して、それが原因で『メンタルが悪くなった(増悪した)』と言われないだろうか?」
「話せばわかると思い『お願いだから辞めてくれ』と下手(したて)に出て、よけいに問題がこじれてしまった。」
 そのように相談してくる使用者の方もいます。
 まずもって、そのようなケースは、「メンタルヘルス問題」と言うよりは、よくある「問題社員」として、問題を整理して捉えるべきです。
 配慮するとは、甘い対応をとることではありません。

 ・・・・仏のように配慮して、鬼のように評価する・・・・

 それが、公明正大な労務管理・人事管理の基本というものです。

3.「配慮と限界の定め」による対応

 問題社員でない場合、まさに「配慮と支援」その「限界」を、就業規則に定めておくことが最良の対策です。
 労働契約において、労働者=社員には、労務を使用者=会社に提供する義務があります。提供できなければ債務不履行、契約解除ということになりますが、その前に、使用者には「配慮する義務」が横たわっています。

 休職とは、社員に労務を提供させることが不能・不適当なとき、ただちに労働契約を解除するのではなく、労働契約を維持しながら、一定期間の労務の提供を免除し、または禁止することです。その期間のうちに復職することができればハッピーエンド、できなければ解雇または退職ということになります。
 すなわち「配慮」と「限界」そのものを規定したものといえます。

 あらためて、会社の就業規則を読んでみてください。

★休職及び復職は、会社が主体的に判断し、命令できるものになっているでしょうか?
 あたかも「休暇やバカンス」のように、社員が権利として恣意的に申請できるような、趣旨から外れて規定されている就業規則が散見されます。

★会社が休職・復職を決定するに際し、産業医など会社指定医師への受診を指示・命令できるものになっているでしょうか?
 本人の主治医による診断のみであれば、振り回されるだけです。

★休職期間が満了してもなお勤務不能なとき、または復帰できないと判断した時は、「解雇」でしょうか?それとも、あらかじめ合意していた事実(時期)の到来としての「自然退職」でしょうか?
 後者の方が、トラブルは少なくなります。

★休職期間「○カ月(○○日)」の日数は、通算できるように規定されているでしょうか?
 そして、休職命令の要素である「欠勤が○○日間に達したとき」の日数も、通算できるように規定されているでしょうか?
 連続した日数であると解されるものならば、メンタルヘルス問題の場合、有効なものとは言えません。

★病気になったとき、休職・復職の決定、復職後の支援について、職場の意見を聴取し、協力を得られる体制になっているでしょうか?
 特に「職場復帰ができる」とは、主治医が診断書に書く一般論としての労務可能ではなく、原則としては、その職場における通常業務への就業が可能であるかということです。

 そして、「社員各人には健康の維持に努める義務がある」ことが周知されているでしょうか?

 心身の健康管理とは、第一義的には本人の責務です。

(阿世賀 陽一)