限定と成長

1.有期と無期

 この4月から(1)労働契約期間が単に「有期」であることによる不合理な労働条件が原則として禁止され、(2)その「有期」についても原則として5年を超えると「無期」に転換されるということは、「有期労働契約の問題」でお話ししました。
 この「有期」の労働条件が厳しい就職活動と採用ステップの末に入社した「無期(正社員)」と「違いがあって良いのか?」「同じであって良いのか?」ということは、「同一(価値)労働・同一労働条件」の原則と相まって、争いのタネになってきました。
 1996年の丸子警報器事件(会社の負け)では、同じ長野県の工場で、同じ組立ラインに配置され、同じ業務に従事してきた臨時女性社員の賃金が「同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるときは、許される格差の範囲を明らかに超え、その限度において無効」とされています。会社は控訴しましたが、全国的な「運動」を招き、一審を上回る労働者側に有利なかたちで「和解」になっています。
 しかし大きな差異=無効ということではありません。
 2008年の立教女学院事件(賃金格差については労働者の負け、雇止めは会社の負け)では、3年派遣+3年直接雇用の有期職員に対して「(無期である)本務職員の場合には、長期雇用を前提に配置換え等によりいろいろの経験を重ね、幹部職員となることが期待されており、これを受けてその賃金体系についても、年功序列型賃金体系、すなわち、労働者の賃金がその従事した労働の質と量のみによって決定されるわけでなく、年齢、学歴、勤続年数、企業貢献度、労働者の勤労意欲の喚起等が考慮され、当該労働者に対する将来の期待を含めて決定されている」として、不法行為に基づく損害賠償請求を退けています。この判例は、今回の労働契約法改正の通達の主旨に合致しています。
 同一価値とは「質と量」だけではありません。
 「それ以外に何があるのだ?」と言うならば、時間性があるのです。

2.限定正社員と無限定−島耕作

 不合理ではなく、5年を超えて「無期」に転換する「元・有期」の受け皿にもなる「ジョブ型正社員」「限定正社員」という言葉が出てきました。
 これは、「職務」「勤務地」「労働時間(残業なしと短時間)」が限定された無期の正社員です。
 そのように限定された労働契約ではない正社員が、無限定正社員ということになります。

 『課長島耕作』という人気マンガがありました。電器メーカーに勤めるサラリーマンの物語ですが、その1983年の連載第1回を私はリアルタイムで読んで覚えています。それは、会社が正社員を「全国型社員A」と「地域限定型社員B」に分けるというもので、妻子ある平凡なサラリーマン島耕作は、離婚して「全国型」を選択します。最初のエピソードは経営幹部の「島君は、Aか・・・・」という言葉で終わります。
 それからというものの、いつもピンチに陥るたびに、何故か数多くの・・・・無限定の女性に助けられ(子供には見せられないマンガです)『部長島耕作』『取締役島耕作』『常務島耕作』『専務島耕作』と出世していき(そんな美味い話があるか!)、とうとう『社長島耕作』になると、永年つき合っていた創業者の娘である女性と再婚し、雇われ社長を超える存在となって! 
〜現在に至る。
(one more time・・・そんな、美味い話があるか!!)

 大企業の正社員である島耕作の場合は、「全国型」といっても、その意味するところは「全世界型」です。処遇の違いは、社長島耕作氏のように出世するかはわかりませんが、キャリアアップの期待とその範囲から考えると合理的なことと言えましょう。

 昔の(今もありますが)「地域限定型社員B」の、その「地域」の事業場が消失した場合は
「悪いが、君の限定地域を変更してもらえないか?」というステップを踏んだものです。
 非正規の時代を経た今の「限定正社員」について政府は、そのような場合の法的ルール(解雇の合理性・相当性)の確認・整備を検討中です。

3.成長による昇格・昇進

 「無期と有期」「無限定と限定」とは、人事管理における雇用形態によるヨコの固定的な区分です。
 有期による雇止めや解雇条件の緩和などの雇用調整機能を別とするならば、その実力と役割と処遇については、昇格によって動く、格付けによるタテの区分を考えても良いのではないかと思います。

 私のある顧問先さまは、年功序列であった賃金制度を変更して人事考課制度を導入した際に、経営トップの英断により、ある有期・非正規の社員を、人事考課の対象とすることとし、その人事制度の1等級に格付けしました。
 その社員は成果をあげ、高評価を得て、周囲も納得するなかで昇格・昇進していき、今では現場のトップです。

 関与した顧問先さまの社員の成長は、人事賃金をする社会保険労務士の最高の喜びです。

(阿世賀 陽一)