問題社員4−泣いて馬謖を斬る

1.平等待遇の原則

  問題社員問題の対策としての懲戒処分が有効なものとなるには、「罪刑法定主義の原則」の通り、就業規則の懲戒規定に「アレをしたらこうなる」と罪と罰を具体的に定めておく必要があります。
 対策もさることながら「アレはするな」と明確にして周知しておくことは、問題の予防の大前提です。
 そして定めた以上は、それを遵守するかたちで実行しなければなりません。
 「同一事由における者の処分は、過去の他の者の処分例との均衡(バランス)を維持しなければならない」との「平等待遇の原則」です。

2.馬謖の反対行動 

 三国志の時代、蜀漢の軍師諸葛亮孔明は、劉備玄徳亡き後、丞相となって南方を平定し、いよいよ成都の北方の漢中に陣を置き、さらに北方の当時魏の領地であった関中の古都長安を奪取する北伐に向かいます。
 「弱い漢(蜀)が持ちこたえてきたのは人材の力です。(前)漢が成ったのも人材がいたから。
 (後)漢が滅びたのもろくでもない人罪がいたから。これからも人材を大切にしてください。
 私は先代(劉備玄徳)の三顧の礼に報いるために、云々(出師の表)」
 三国志後半最大のヤマ場!
 もしこの作戦に成功していれば、(その昔、項羽の詭弁・強弁で関中王になれず)漢中王から天下取りをスタートさせた漢の高祖劉邦に倣って、蜀漢は前漢・後漢を継承する第三の漢帝国となって中国を統一していた、かもしれません。そうなっていれば、後の世の世界史の教科書や歴史年表には「前漢・中漢・後漢」となっていた、でありましょう。

  諸葛亮孔明は、才能があり自分の後継者とまで目していた弟子の馬謖を前線の大将に任じますが、その際、
 「今回の相手に山上の陣だけはやるな」と命令します。
  しかし、「やるな」と言われたら「やりたくなる」のが人間の反対行動(マイナス・コンピテンシー)というもので、
 「山上から攻め降りた方が有利に決まってるじゃん」と全軍を山上に登らせ、敵軍を待ちます。
  若者の浅知恵。これは相手の(曹操孟徳時代からの孔明よりもキャリアのある)超ベテラン武将に見抜かれ、馬謖軍は水の補給路を断たれて動揺し、逆落としに勢いよく攻め降りたところをスカされ、包囲されて全滅。

 命からがら逃げてきた馬謖に、周囲は「能力と功績のある人材だから」と意見しますが、諸葛亮孔明は「軍のルール遵守が優先される!」と愛弟子を処刑し、その目には涙があった・・・というお話し。

3.林佐渡守の非違行為 

 「Aは問題を起こしたが、能力と功績があるから許す」としたなら、後で同じことをしたBを処分することが困難になります。
 それは「アレはするな」という企業秩序が崩れることにつながります。
 有能な人も無能な人も、罪に対しては平等でなくてはなりません。

 問題が起きたにもかかわらず目をつむり、または処分する時期を失って、忘れたころに処分することもできません。それは問題が起きたときに「沈黙によって許したのだろう」とか、企業にとって「たいした問題ではなかったということだろう」となります。

 天下布武がほぼ見えてきた天正8年、織田信長は譜代の重臣をリストラ(追放)しますが、佐久間親子に
 「明智光秀や羽柴秀吉は頑張っているのに、お前たちはこの間全く無策で、やる気がなかった」と言うのは「信長ならば、さもありなん」ですが、林佐渡守に
 「お前、24年前に弟の信行が謀反を起こしたとき加担したろう」と言うのは無理があります。
 信長うつけ時代の24年前には柴田勝家も一緒に加担しました。
 佐久間も林もその時の信長にはとても逆らえずに、唯唯(いい)と追放されましたが、賞められた方の光秀と秀吉も、
 「オレは能力と功績があるから絶対に大丈夫」などと思ったでしょうか。
 この年に功績NO1と評価された光秀は、2年後
 「次はオレが追放されるのではないか。やられる前にやるしかないのか」と悩み、信長のほんのわずかな油断に、本能寺へと向かいます。
 その心中には、高評価の慢心などではなく、むしろ恐怖と滅びに向かう哀しみがあったことでしょう。

4.企業秩序の維持は勝利するための手段 

 「Aは能力と功績があるから許す(不問とする)」ことは、自ら組織に不利を招くことになりますが、そうは言っても
 「Aは能力と功績があるから許したい(軽くしたい)」と思うことは自然な心情です。
 またいざ処分となったとき処分する方にも相当なストレスが生じ、諸葛亮孔明のようにはなかなかできないものです(蜀漢の国運を傾けた馬謖の場合は、損害が大きすぎました)。

 企業秩序の維持は、それ自体や排除が目的ではありません。
 軍団であれば、勝利するための手段です。

 罪に対する罰の程度は、「合理性・相当性」があることが何より必要ですが、淡々と実施できるよう、それよりやや軽めの方が良いと思います。
 そして、より厳しい処分の事由の最初に
 「(1)前条の違反が再度に及ぶとき」と累犯過重(罪を重ねれば罰は重くなる)を定めておきます。
 ほんとうに人材であるならば、悔い改めて、成長しなくてはなりません。

(阿世賀 陽一)