問題社員5−懲戒とは別の仕方で

1.その問題社員の賞与は?

  社内には、経営者に(情実ではなく)正当な昇給圧力や負債感を与えるような活躍をしている社員がいる一方、「やるべきことをやらない」「やってはいけないことをやる」ことによって耐え難い気持ちにさせる社員もいるものです。
 そのような社員が服務規律や懲戒規定に照らして非違行為(悪いおこない)をしたならば、企業秩序を維持するために、すみやかに懲戒し、将来を戒め、悔い改めてもらわなければなりません。
 それとは別に
 「耐え難い者がいる。自分は我慢できても、他の社員や会社全体のことを思うと・・・もう 放っておけない!」
と言うようなご相談があった時、
 「その人の、この前の賞与はどうなされましたか?」
 「・・・・普通通り、一律に出してしまった」という場合があります。

 賃金は労働の対償(労働基準法第11条)であり、労働の対価ですから、その労働(職務行動)に問題があれば、賃金の決定に影響が出てくるのは当然です。

 労働の「対償(たいしょう)」、「償(つぐない)」という字からはテレサ・テンの名曲(窓に西日が〜)や、使用者からの「代償(だいしょう)」のように西欧的な「労働は原罪に対する罰である」的なニュアンスも感じられますが、本来「人+賞」は、人の功績に対して与えられる財貨の意味です。

 評語(一般的なSABCDとして)の真ん中のB評価とは「可もなく・不可もなく」ではなく、期待レベルに対して「満足である」というメッセージです。
 「もうやめてもらいたい」と思うほど成績不良な社員の業績評価が、
 そう思うほど能力不足な社員の能力評価が、
 そう思うほど問題行動を起こす社員の行動評価が、
 「B−(あっ惜しい。満足までにあと少し)」程度であれば・・・、道理が通りません。

2.制裁としての賞与減額

 労働基準法第91条(制裁規定の制限)には、制裁(懲戒処分)による「減給は、その1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」と規定されています。「制裁」として賞与を減額するならば、賞与も賃金なので、総額の10分の1を超えると労働基準法違反になります。それは注意しなければなりません。

 また、非違行為をしたことによって一度戒告などの懲戒処分をした社員に、その処分と同じ事由によって「制裁」として賞与を減額するならば、一事不再理(二重罰禁止)の原則に反することにもなります。それも注意しなければなりません。

3.制裁と評価

 しかし、評価は制裁ではありません。
 方向が違う別問題です。
 人事考課によってC評価やD評価などの低評価の結果、昇給や賞与がB評価よりも低額になることは、賃金の計算方法であり、減給ではありません。
 必ず支払うべきものを支払わなかったら減給ですが、必ずそれだけ支払わなくてもよいものを、どれだけ支払おうかという、社内秩序(ルール)に従った賃金決定方法であるということです。
 それは賞与だけではなく、人事考課による昇給でも同じことです。

 もし、就業規則・賃金規程によって、あらかじめ賞与の支給率が完全に決まっているならば、それはすでに、「人+賞」とは言えません。それが権利だと言うならば、逆に1カ月を超えた「賃金後払い」であり、そのような要求は労働者の立場としても矛盾であると言いたい。
 その意味では、年俸制のなかの、額が決定済みの賞与的な部分もリスクのあることです。
 成長や貢献がなくても(長く安定的に勤めると言うことは企業のバリューによっては貢献であることもありますが)、完全年功制で、問題があっても定まった昇給があるならば、それは同一労働・同一賃金に逆に反することになるでしょう。

4.評価しないというメッセージ

 懲戒と同一事由の問題だけではなく、そのような問題社員には、「放っておけない非違行為」とまではいかない「不満足」な職務行動が多くあるものです。

 評価とは、その期間全般から成果、仕事ぶり、能力の伸長、勤務成績などを、評価ルールに則って判断するものです。
 この「ルール通り」というのが大事です。
 評価のトラブルになったとき、評価の結果そのものよりも、人事考課がルールと手順の通りにおこなわれていたかが第一に問われます。

 人事考課の調整会議に招かれたとき、第一次考課者による評価とその理由説明を聞いていると、部下の仕事ぶりに不満足を表明、またはそう明らかに顔に書いてあるのにB評価前後である場合があります。功績と不満足が相殺されてのB評価であるならば、それは適切な評価なのですが・・・。

 「そんなに不満足なのに、『満足』のメッセージを、上司として、会社として、出して良いのですか?」
 評価しないということは、時には、懲戒よりも強烈なメッセージになることがあります。

(阿世賀 陽一)