刑罰法規としての労働基準法

1.労働基準法と資本主義

 労働基準法は、最低基準として事業主の義務であると定めた事項については、違反に対する監督指導と罰則がある強行法規、行政刑罰法規です。
 どうして国は、法律でそこまでするのか?
 使用者と労働者との契約の自由に任せて良いだろう?と疑問があがります。
 その理由は、あんまり労働者をいじめてしまうと、国家が成り立たなくなるからです。
 
 個々の(事業主ではなく)「資本」が自らの性質に忠実に利潤の最大化に向かい、価値の源泉である「労働力の量と質」が総体的に維持できなくなれば、原理的に資本主義は回らなくなり、弱体化していくのは道理でしょう。
 労働基準法のような、いわゆる労働者保護法規が生まれたのは1919年(その2年前にロシア革命)、ヴェルサイユ条約など第一次世界大戦の戦後処理をしたパリ講和会議で、それ以来(社会主義国ではなく)、資本主義国家に広まっていきました。
 
 今思えば、自己抑制された資本主義が人々を(労働者をも)豊かにしていた黄金期は、1969年のアポロ11号や翌年の日本万国博覧会の頃であったと思います。その頃は、日本は一億総中流を謳歌し、アメリカも今のような格差社会ではありませんでした。

 労働基準法や最低賃金法はそこまで規定していませんが、「労働力の量」を維持するためには、基本的な生活費の他に、労働力を再生産する費用(デート代、勝負服代、失恋のヤケ酒代、贈り物代、結婚・出産・育児・子女教育費等)が必要です。「労働力の質」を維持するためには人材育成をする費用が必要です(お金だけではなく時間・期間が大きいと思います)。
 もっとも、費用をかけても、本人たちの問題として「量と質」は維持されないことがあります。高校生や大学生の学力は驚くほど低下していると言われます。
 そして1913年7月の段階で非正規労働者の割合は38.2%。
 すでに、日本国はそうとうに弱体化しているのではないかと思います。

2.労働基準法の刑罰

 労働基準法の罰の程度から一番重い罪は「強制労働」です。以下、「中間搾取」「児童労働」、「均等待遇」「男女同一賃金」「賠償予定契約」「前借金相殺」「時間外労働・休日・休暇等と割増賃金」「寄宿舎生活の自治」、「労使協定・就業規則の届出」・・・・・・と続き、80を超える条項違反が対象とされています。
 労基署等の臨検・尋問・命令を拒むことや虚偽の陳述・報告をすることも対象になります。

 前借金相殺と強制労働が組み合わさると、先日、BS朝日の再放送で見たところでは
「年季が明けたら、夫婦(めおと)になろう!」
「また借金が増えてしまって・・・私は死ぬまでここから抜け出せない・・・」
(そして折檻・・・恨み)
で、そのような事業場の事業主は、最後に必殺仕事人に殺られてしまいます(やっぱり仕事人は中村主水です)。 
 今時、強制労働なんてと思いがちですが、むしろ最近のブラックと言われる新興企業ではそのようなことがあるとされ、実際に私も顧問先の経営者から「知人の息子さんが社員寮に入れられて、そのまま逃げることもできなくなって」と相談を受けたことがあります。
 それは、寄宿舎(昔風に言えばタコ部屋)の問題と強制労働の組み合わせである疑いがあります。

 これらの違反行為をした者が、その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為した社員等であった場合は、事業主に対してもこれらの罰金刑が科せられます(両罰規定)。
 ただし事業主が違反の防止のために必要な措置をした場合は免責されます。
 労働基準監督官は、違反の罪については刑事訴訟法に定められた司法警察官の職務を行うことになっています。監督官は、拳銃は持っていませんが、手錠と縄を持っています。
 普通の「臨検」では是正勧告に対し素直に改善してお咎めなしですが、労働者が訴追を求める意思で「告発」すると、労基署としては「捜査」して「送検」することになります。
 ネットを開けば、相談や普通の申告ではなく、そのように「告発」を勧める団体が出てきます。

3.労働条件の明示

 寝る暇もなく働かせたりすることはマズイだろうとは、常識的に理解できますが、「そんなことで!」と意外に思うような罰則付き義務に「労働条件の明示」があります。
 「募集広告の通り」「ハローワークの求人の通り」の採用で、お互い納得していた(と思っていたら「告発」された)ということがありますので、注意しなければなりません。

 労働契約は、民事的には
「君、ウチで働くか?」「お願いします」
という口頭でも成立しますが、戦前、労働条件を示されないまま、募集員の甘言によって遠隔地に連れて行かれ、帰る旅費もなく、低条件で働かされることがあったそうで、労働基準法は、次の絶対的明示事項を「労働条件通知書」などの書面交付によって明示することを義務づけています。

(1) 労働契約の期間に関する事項
(2) (期間の定めのある労働契約を更新する場合の)その基準に関する事項
(3) 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
この「場所と業務」とは、特約でない限り、雇入れ直後のことで、人事異動を縛るものではありません。
(4) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
(5) 賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切及び支払の時期に関する事項
(6) 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

 労働者1人で1件として30万円以下の罰金です。50人いれば1,500万円。
 他に、パートタイム労働者に「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」を文書明示しないと、1件につき10万円以下の過料というものがあります。

 政府の方針である規制緩和への動きの一方で、具体的で細かな規制は厳しくなっていく傾向にあると私は感じています。

(阿世賀 陽一)