ヤマザキのパンの黄金律

1.大雪のなかでパンを無償提供

 もう昨年の事になりましたが、2014年2月15日、大雪のために通行止めになった中央自動車道−談合坂サービスエリアで、山崎製パンの配送トラックドライバーが、共に雪中に取り残された人々に、自社のパンを無償で配り、美談であると話題になりました。
 自社トラックであったからこそできたことですが、このエピソードからこの食品大手企業である山崎製パンの企業姿勢、リスクマネジメント、安全衛生について学ぼうと、その秋、経営労務の勉強仲間と横浜市戸塚区にある山崎製パン横浜第一工場を見学しました。

2.会議室の黄金律 

  企業説明と「着替え」のために通された小会議室の議長席の後ろにあったのは、経営者の筆によると思われる、額装された新約聖書の次の言葉です。
何事でも、自分にしてもらいたいことは、ほかの人々にもそのようにしなさい。これが律法であり、預言者です。(『マタイによる福音書』7章12節)」

 このイエスの言葉は、昔から幸福と繁栄をもたらす黄金律と言われています。企業活動の面から言えばマーケティングそのものであるとも言えます。「自分もしてもらいたいこと」というところが、「社員はさておきの顧客最優先主義」とは違うところです。

 ちなみに旧約聖書には、
「自分が嫌なことは、ほかのだれにもしてはならない。(『トビト書』4章15節)」との言葉があり、この消極的な戒めは、銀色律と言われています。

「自分がしてもらいたいことを、人にはしない」というならば、誰からも賛同・支援は得られないでしょう。
「自分が嫌なことを、人にする」ならばハラスメント、あるいは正当性のない暴力というものです。
「相手が嫌がることで、かつ正当なことをする」のは悪魔のノウハウになるのでしょうが、それで人々と相手自身も幸福になるならば、仏の慈悲ということにもなりましょう。

3.原子力発電所のようなゲート

 見学の申込書に服と靴のサイズを記入する欄がありましたが、工場見学では頭部を覆うフードと上下つなぎの白衣と専用上履きを使用します。そして工場内部に虫が入らないようにするための特別な仕掛けのあるゲートを幾つも通りました。



 その姿と設備は、かつてこのグループで見学した柏崎刈羽原子力発電所でのことを想起させるものでした。
 「ペヤングソース焼きそば」に虫が混入していたとネットに流れ、まるか食品が「改善諸施策を実施するため」と操業停止を決定したとき、この日のゲートのことが思い浮かびました。

4.「5S」のことなど

「ヤマザキのパンはなぜ美味しいか?」という不躾な質問には、
「私からは答えかねますが、システムを整備しての受注生産により、原料や製品をムダにしていない分、原料を高品質なものにしています」と管理部らしい答え。

 「大雪のなかのパン無償提供」について質問があると「定められた時刻に製品を届けられない場合は、廃棄するしかないので」と言葉少なに。
 第一の義務は配送先にパンを届けることにあるので、会社としては、決して美談としていないのでしょう。もちろん会社に報告・連絡・相談があり、会社が決定したことです。
 しかし、そのような事態に社員ドライバーが「どうしましょうか?」と相談すること自体が凄いことだと思います。

 製造業でよく行われているとおり、(1)整理(2)整頓(3)清掃(4)清潔(5)躾の「5S活動」は、そうとう以前から実施されているようです。
 印象的であったのは、安全衛生と業務効率向上という成果に向けて、その工場で働く社員が、目的のために何をなすべきかがわかるような、よく考えられた、かみ砕いた言葉でポスターが書かれていたことです。

 この5Sのなかで最後の「しつけ」が重要なものであることを、あらためて思いました。それはコンプライアンスにもガバナンスにもつながることです。

 この工場見学で一番驚いたことは、配送用のコンテナの宛先が、「第二工場様」「○○営業所様」と自社の他部門について、関連会社や取引先と平等に「〜様」と表示されていたことです。

(阿世賀 陽一)